宮泉銘醸の「寫楽(写楽:しゃらく)」は、飛露喜と並ぶ福島県の有名銘柄として広く知られています。
2014年SAKE COMPETITION(世界最多出品酒数を誇る世界一美味しい市販日本酒を決める品評会)純米吟醸部門であの「十四代」を押さえて1位を獲得、また純米酒部門でも1位を獲得するダブル受賞という快挙を成し遂げています。
ただ、寫楽がここまでにたどり着くには大変な道のりがあったことをご存知でしょうか。この記事では「寫楽(しゃらく)」の誕生ストーリーとその魅力に迫ります。
なお、寫楽のストーリーは以下の文献を元にまとめました。
- 朝日新聞 福島版 酒よ【高く、高く】
- マイ日本酒探し「写楽が最近旨くなった秘密はなにか?」
目次
1. 寫楽の魅力はその香りの高さとフレッシュさ!
開栓と同時に鼻をくすぐる品のある立ち香、口に含んだときのトロリとした感触、米の甘味と同時に果実系の甘味も感じられ、しかも切れがありフレッシュ、これが寫楽のどのラインにも共通する味わいの魅力でしょう。
特に純米酒は吟醸酒のような香りととろみと甘味が醸し出すハーモニーは絶妙で一度飲んだら忘れられない味です。また、アルコールを添加して醸すアル添と呼ばれるタイプの日本酒では「これ本当にアル添なの?」と聞き返してしまうくらいアル添を感じさせない酒。
実は、この味の秘密は徹底した品質管理にあります。普通20~30%は、手を抜いてしまという「手のかかる細かい作業」を寫楽(しゃらく)は絶対省かないのです。
名水と言われる水でも不純物はあるものですが、この名水にもきちんと全ての工程に濾過フィルターを通した水を使用すると言うような、普通は手を抜きたくなってしまう小さくて細かい作業でも「寫楽(しゃらく)」は決して省かない。なぜなら小さな事を1つ1つ積み重ねていくことが味の差につながるからです。
原材料にこだわるのはもちろん、このような地道で丹念な酒造りが今や入手困難な日本酒となった「寫楽(しゃらく)」を支えているのです。日本酒好きにはもちろん、初めて日本酒を飲むという初心者にも必ず「おいしい」といってもらえる酒それが寫楽の味の奥深さでもあります。
では、次の章から宮泉銘醸のストーリーをご紹介していきます。
2. 実家の蔵が多額の負債、酒造り人生のスタート第一歩はマイナスからだった
寫楽(しゃらく)を醸す宮泉銘醸の4代目蔵元の宮森義弘氏は、赤字になった実家の酒蔵を建て直すため故郷に戻ってきました。酒蔵の家に生まれ育ったが、東京の大学で工学部に入学、卒業後は富士通の関連会社に入社しSEと呼ばれるシステムエンジニアとして働いていました。
この当時の蔵は、造った酒を大手の蔵に「樽買い」してもらう下請けの蔵として運営されており経営状態も良くない状況だったため、両親からは「帰ってこなくていい」そう言われていました。しかしその後「蔵人が辞めてしまい人手不足なので戻ってきて欲しい」と声がかかり実家に戻ることになります。
戻った当時会社の負債は2億円以上、「蔵を継続するか、辞めるのかは自分で決めていい。」
父親からはそう言われたのですが子供の頃から実家を継ぐつもりでいた宮森氏は迷うことなく後を継ぐのでした。
酒造りの経験がなかった宮森氏は福島県が主催する福島県清酒アカデミーで3年間酒造りを学びます。酒造りを学びながら廃業の危機を脱するために見直したことは、「細部にまで気を配り全ての工程で手を抜かないしっかりとした酒造り」にしようということでした。
杜氏制度は廃止し、酒造り自体をまるごと変えていきました。工学部出身の彼らしく全てデーターで管理する方法に切り替え原料や発酵具合などの酒造りの工程を徹底的に数値管理し1度、1%単位でチェックするようにしました。
自分が考える、理想とする日本酒を目指して100%手を抜かない酒造りを目指したのです。清酒アカデミーで教わった酒造りは鑑評会用に出品する吟醸酒の酒造りでした。彼は蔵人達に「こういう日本酒を造りたい」そう申し出ました。
蔵の杜氏達からは普通の酒造りに吟醸酒造りを持ち込んでは手間がかかりすぎると猛反発を食らいました「できるわけがない」そう言われ続けました。元々製造していた蔵の銘柄「宮泉」とは別に自分が造りたい酒を「寫楽(しゃらく)」として別に造り出しました。
無理だと言われても、できるわけがないと言われても頑なに自分の造りたい味を求めて「寫楽(しゃらく)」をとにかく造り続けました。甘味と酸味のバランスがとれた上品な甘さのあるこの酒は、こうして2012年「宮泉」の生産量を超えたのでした。ようやく反発していた蔵人達に宮森氏の酒造りが認められた時期でもありました。
3. 「飛露喜」の廣木氏は、憧れの先輩であり目標
宮森氏の憧れであり目標としている酒があります。それが廣木酒造の醸す「飛露喜」です。フレッシュでフルーティーな日本酒として全国的に人気の銘柄です。
この日本酒と出会ったのは、会社の同期たちが送別会で福島の地酒を飲もうと言って地酒酒蔵へ連れて行ってくれたときのことでした、見たことがない知らない福島県の銘柄がそこにはあったのです。
注文したものの「人気があるので売り切れです」そう言われてその場では飲めなかったため、飲める店を紹介してもらい後日、飲んでみたのが「飛露喜」だったのです。
深い味わいで気品のある甘味、そしてフルーティーな味わい「なんだろう?この味?」出会ったことのない味わいに、こんな日本酒があるのかと魂を揺さぶられ、こんな日本酒が造りたい・・・そして宮本氏の目標は日本酒「飛露喜」となったのです。
入校した福島清酒アカデミーの講師の1人に「飛露喜」を造り上げた廣木酒造の廣木氏がいました、ここで2人は講師と生徒という関係でつながり、2007年「寫楽(しゃらく)」を世に出してからは、廣木氏が何かと宮森氏の面倒を見るようになり個人的なつながりを深めていったのでした。
宮森氏が醸す日本酒「寫楽(しゃらく)」ですが元々は宮泉銘醸の本家筋の酒蔵である東山酒造が「古典寫楽」という名で醸していた銘柄です。しかし2005年この蔵は廃業、この時に宮泉銘醸がこの銘柄を引き継ぎました。(今の寫楽は宮本氏が受け継いでゼロから挑んだ全く新しい日本酒で当時の古典寫楽とは味は違う)
以前「十四代」の記事でお話ししたことがあるのですが高木酒造の高木氏が学生時代に居酒屋で飲んで初めて旨いと思い、こんな酒が造りたいそう思わせた日本酒こそがこの東山酒造の「古典寫楽」だったのです。
そしてこの高木酒造の「十四代」に感化されて誕生したのが廣木酒造の「飛露喜」そして「飛露喜」のような酒が造りたいと目標とし奮起して造り上げたのがまさにこの「寫楽(しゃらく)」なのです。
「古典寫楽」から「十四代」そして「飛露喜」から「寫楽」というこの道筋は日本酒ファンならときめきを覚えるような不思議なつながりだと感じずにはいられないのではないでしょうか。
4. 【飲み比べ!】辛口の「會津 宮泉」と香り高い「寫楽(しゃらく)」
もともと宮泉銘醸で醸していたのが「會津 宮泉」と言う銘柄です。現在、蔵ではこの「會津 宮泉」と「寫楽(しゃらく)」の2種類が造られています。
「會津 宮泉」は酒に地元の酒販店や、飲食店向けとして販売されており全国区での流通はほとんどありません。
反対に「寫楽(しゃらく)」は全国区向けの日本酒で蔵との販売契約がされている特約店のみが販売している日本酒ということになります。
地元酒と全国酒の違いだけで味は変わらないだとか、「寫楽(しゃらく)」が地元で販売される時に「會津 宮泉」になるのだと言われたりすることもあるのですが飲み比べてみると味わいに多少違いがあります。今回は純米酒でその違いを比べてみました。
「會津 宮泉」は「寫楽(しゃらく)」に比べると少し辛口よりかと思います、「寫楽(しゃらく)」の方は甘味が先にくる感じです。また、「寫楽(しゃらく)」は香りが高めだと思うのですが「會津 宮泉」はそこまで香りは立たない感じを受けます。
口の中に含んだときの円やかさは両方共に同じような感じですが、喉をとおるスッキリとした切れは「寫楽(しゃらく)」の方が強い感じがします。
もし、手に入るのであれば「會津 宮泉」と「寫楽(しゃらく)」ぜひ純米酒のラインで飲み比べてみてください楽しいと思います。
5. 先輩「飛露喜」を抜き、SAKE COMPETITIONで優勝、これを足がかりに全国区へ
「寫楽(しゃらく)」を造り上げてから3年がたっていた、2010年新たな出会いが待っていました。東京の「はせがわ酒店」社長の長谷川浩一氏との出会いでした。
ワイン・モルトウイスキーと日本酒以外にも知見が深く、静岡の「磯自慢」や高知の「酔鯨」をいち早く見いだし世に送り出したことでも有名な日本酒を知り尽くしたプロです。
廣木酒造の廣木氏が同席し東京でなかなか売れない「寫楽(しゃらく)」の面倒を見てくれないかと頼んでくれたのです。その席に持ってきた宮本氏の酒「寫楽(しゃらく)」を飲んだ長谷川氏はSAKE COMPETITIONへの出場を勧めたのでした。
SAKE COMPETITIONは、サッカー元日本代表MFの中田英寿氏が実行委員を務め、自身も関わっている世界最多出品酒数を誇る世界一美味しい市販日本酒を決める品評会。ここで良い成績を納めた日本酒は、話題になり知名度が上がっていくのです。2012年初参加した「寫楽(しゃらく)」は4位入賞。この時の1位は憧れの先輩「飛露喜」でした。
それまで200石の生産量(1石=180リットル)しかなかった蔵を、10年余りで10倍の2千石、生産量20万本へと増やすという偉業をなしとげました。
6. 贅沢中の贅沢!「寫楽(しゃらく)純米大吟醸 極上一割八分」
會津酒楽館 渡辺宗太商店 商品紹介ページより 720ml 20,000円(税抜)
常にさらなる進化を求めて挑戦し続ける「寫楽(しゃらく)」ですが2016年より高精白での日本酒造りにも挑戦しています。兵庫県六甲産の特A地区の山田錦を使用してなんと精米歩合を18%まで磨き上げたという「冩樂(しゃらく) 純米大吟醸 極上一割八分」です。
期間限定、数量限定で販売されるプレミアムな1本。通常のラインでも完成度の高い日本酒を醸す「寫楽(しゃらく)」ですがこの「冩樂(しゃらく) 純米大吟醸 極上一割八分」は華やかな香り、円やかなとろみがかった口あたり、極上の透明感と、そろいにそろった当蔵の歴史上で最高の一本となっています。
もし目にすることがあれば迷わずGetすべし!といいたい究極の日本酒です。
7. 「寫楽(しゃらく)」ラインナップ紹介
「寫楽(しゃらく)」には季節限定の商品や期間限定の商品など多彩なラインナップが多いのが特徴です。ここでは比較的手に入りやすい人気の商品をまとめました。見つけたらすぐに購入しないと売り切れてしまう人気商品ばかりです。
寫楽 純米酒
寫楽といえばこの純米酒と言うぐらい寫楽を代表する味わい。香りが高くスッキリとした後味はどんな食事と合わせても相性が良い
1,800ml 2,600円(税抜)ご購入はこちら →
寫楽 純米吟醸酒
ワインの熟成を応用し日本で初めて大吟醸酒を販売した黒龍の代表酒
1,800ml 3,200円(税抜)購入はこちら →
冩樂 純愛仕込み 純米酒
酒米は、会津湊町産「夢の香」を使用し甘味と香りのバランスが良く伸びやかな口あたり
1,800ml 2,600円(税抜)ご購入はこちら →
冩樂 純愛仕込み 純米吟醸酒
こちらは「純愛仕込み」の純米吟醸酒になります。寄り香りが華やかでフルーティー純米酒と飲み比べても楽しい
1,800ml 3,200円(税抜)ご購入はこちら →
寫樂 純米吟醸 播州山田錦
兵庫県産の山田錦を使った上品かつまろやかで、バナナのようなフルーティーな香りがする吟醸酒
1,800ml 3,980円(税抜)ご購入はこちら →
寫樂 純米吟醸 酒未来
高木酒造が、情熱的に酒造りに取り組んでいる酒蔵にのみ提供している酒米「酒未来」で醸した吟醸酒。一度飲んでみる価値あり
1,800ml 3,400円(税抜)ご購入はこちら →
蔵元:宮泉銘醸(株)
福島県会津若松市東栄町 八番七号
※表示価格は2019年8月現在の1,800ml瓶の正規販売価格となります。
まとめ
ここまで日本酒「寫楽(しゃらく)」に関してお話しして参りました。エンジニアだった1人の男性が実家の負債という大きな荷物を背負いながらマイナスでスタートした酒造り。常に前向きで探究心を忘れない力強い酒造りはいつしか誰もが認める銘酒へと変貌を遂げました。
寫楽はレアな日本酒の一つですので、見かけたらぜひ飲んでみてください。
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