十四代の魅力とは?これまでの日本酒の常識を変えてきた高木酒造の話

十四代

「十四代(じゅうよんだい)」は、山形の高木酒造が醸す日本酒。
プレミアがついて入手困難な日本酒として有名ですね。

淡麗辛口の日本酒が主流だった中、フルーティーで甘口な十四代を売り出し、その香りの高さや優しい甘さで一気に全国区となりました。酒の質の高さに多くの人が魅了されました。

しかし実は、高木酒造の高木氏は、酒造りの経験がない中で初めて造り上げたのが十四代なのです。

どのようにして十四代が生まれたのか?そのストーリーに迫ります!

背景がわかれば、もっと十四代を飲むのが楽しくなるはずです!ぜひ参考にしてください。

1. 十四代の魅力とは

十四代を醸す高木酒造は、冬には大量の積雪がある豪雪地帯として知られる山形県村山市大字富並にあります。1615年創業で400年の歴史を持つ老舗酒蔵です。

口の中に含むとわかるなめらかさと、香り穏やかで優しい甘み。一度経験してしまうと忘れられなくなるそんな品のある日本酒です。

入手困難であることから、十四代は「幻の日本酒」とも呼ばれています。

実は、高木酒造がすごいのは、「十四代」それ自体だけでなく、これまでの日本酒の歴史が変わるきっかけを作ったことにあります。先駆者的な存在として、日本酒造りに変革をもたらしてきました。

たとえば、以下のようなものです。

  • 主流が淡麗辛口の時代に、フルーティーな芳醇甘口を世に出した
  • 完全分離していた蔵元(経営)と杜氏(酒造り)を統合させた
  • 1800mlの一升瓶で2.000円を切る酒で価格破壊を起こした
  • 同じ蔵でいつもと違う酒米で酒造りを始めた

こういったこれまでの常識を覆す様な発想の転換は、酒造り未経験の酒蔵の息子が造り上げたということをご存じでしょうか?

未経験の若き蔵の跡取りがどのようにして十四代を造り上げたのか、時代が移り変わっても変わらぬ人気の秘密は何なのかを十四代の歴史と共に見ていきたいと思います。

なお、十四代誕生ストーリーは以下の文献を元にまとめました。

日本酒ドラマチック(講談社)
愛と情熱の日本酒(ダイヤモンド社)
SINRA1994年10月号(新潮社)
朝日新聞 福島版 酒よ【高く、高く】
toshiyuki sasaoka(YouTubeチャンネル)

2. 【誕生秘話】十四代はゼロからのスタートだからこそ生まれたお酒

景色

2-1. 杜氏が引退、突然の杜氏指名

「十四代」を醸すのは高木酒造15代目の高木顕統(たかぎ あきつな)氏である。東京農業大学醸造学科を卒業。

将来父親の後を継いで蔵の経営者になるために流通の勉強をした方がいいだろうと、卒業後は東京新宿の「クイーンズ伊勢丹」で酒売り場の担当をしていました。

仕事を始めて2年目に父親から実家に呼び戻されることになります。戻ってみると高齢を理由に杜氏が引退、杜氏の代わりに酒造りの陣頭指揮をとるように父親に命ぜられたのが酒造りに足を踏み入れたきっかけでした。

当時、蔵元と蔵人は完全なる分業制。簡単に言うと、蔵元は経営を行い、蔵人は杜氏をリーダーとし酒造りを行います。高木氏は、大学で酒造りを学んだとはいえ基礎だけで何の経験もなかったのです。

父親の跡を継ぐつもりではいましたが、まさか自分で酒を造るとは。突然の出来事に心の準備もないまま酒造りに挑まなければならなかった、この時若干25歳の若さでした。

2-2. 初めて旨いと思った酒の味が十四代のモデルに

十四代

経験のないまま始めた酒造り、しかし経験はない中でも蔵元として飲んでもらいたい、そうイメージした酒がありました。

学生時代に居酒屋で飲んで初めて旨いと思った酒の味です。福島県の酒で山田錦を使った生酒。濃い旨みのある酒、蒸し米のような甘い香りと深い旨みがありました。

「この頃の日本酒の主流は淡麗辛口、売れている酒は上質な酒のはず」

しかし自分の舌にはどうしても違和感があったのです。

初めての酒造りに取りかかるとき、そう蔵人達に思いを伝えました。子供の頃から自分を知っている蔵人達はその思いをかなえようと必死に努力してくれました。大学の恩師や県内の工業技術センターのアドバイスも仰ぎながらただひたすら一心不乱で酒造りに取り組んだのでした。

初めて取り組んだ酒造りは想像以上に過酷、肉体的にもきつく慣れない力仕事に細切れの睡眠時間、何よりも酒造りは失敗が許されないそのプレッシャーで精神的にとてもきついものでした。途中、急性胃炎になり10キロ以上も体重が落ち最初の酒を造り終えたあとは、高熱で倒れ一週間入院もしました。

2-3. ユニークなネーミングで東京という激戦区で勝負!

こうして造り上げたのが「十四代 中取り 純米 無濾過」でした。

高木氏は十五代目でしたが、自分が思い描いた味で造った酒に、父への思いを込めて「十四代」と名付けたのでした。

※「中取り」とは、日本酒の業界用語。酒の絞りの工程で濁った白い部分がなくなりきれいな酒が出てくる状態のこと指します。日本酒の鑑評会などに出品する酒はこの部分を使うことが多いとされています。

それまで日本酒ラベルに業界用語を用いたものはなく、その真新しさと「十四代」という独特のネーミングで、そのラベルは注目を浴びるようになりました。

酒店鈴傳ホームページより

出来上がった酒は、自分で売り込みに出かけました。東京四谷にある歴史ある地酒販売店「鈴傳」、地酒販売で定評のある東京多摩市にある「小山商店」、東京足立区にある有力酒販店「かき沼」など数軒の酒販店に持参したのでした。

「全国から選び抜かれた銘酒が集まりしのぎを削る東京、ここで認められる酒にならなければいけない」そう考えていました。

それには学生時代の苦い思い出があります。大吟醸ブームに沸いていた学生時代にクラスメートと飲みに行く機会があったのです。全国の吟醸酒を扱う銘酒居酒屋でした。

地元山形では知れた銘柄だった実家の蔵の酒「朝日鷹」は、どの店に行っても、どこにもおいていなかったのです。酒蔵の息子として育った自分のプライドは、一気に崩れ落ち大きなショックを受けたのを覚えていました。そしてその時に実家の蔵の知名度の低さに屈辱感も味わいました。その屈辱感を払拭するにはどうしても東京で勝負したかったのです。

若い蔵元杜氏が醸した斬新で新しいタイプの日本酒は持ち込んだ酒販店の店主達に認められ着実に売り上げを伸ばすこととなりました。

これが十四代の歴史の始まりであり「十四代 中取り 純米 無濾過」は、「十四代」の原点となる日本酒となりました。

3. 一升瓶2,000円!?本醸造で価格破壊を起こした2年目の「十四代」

十四代

一年目で「中取り 純米 無濾過」が売れ行きを伸ばしていた頃、高木氏にはもう一つの構想がありました。それが蔵の定番酒となる2.000円以下の旨い酒を造りたいと言う思いです。

「中取り 純米 無濾過」は生酒で季節商品、固定客をつかむには一年中販売できる定番酒がなければいけないと考えていたのです。

そして「クイーンズ伊勢丹」で酒販売をおこなっていたころから考えていたことは、2.000円以下で旨い酒を造ることができたら絶対に人気が出るはずだ!販売経験からそう確信していました。

その思いで造り上げたのが「十四代  本丸 秘伝玉返し 特別本醸造」です。米を大吟醸のように磨いていない本醸造なのに、吟醸香が香り高くしかも雑味が極めて少ない洗練された味わいの日本酒。

よい酒は大吟醸に限ると言われていた時代、地酒を扱う酒販店には本醸造を取り扱う店はそれほどなかったのです。米もさほど磨かずアルコール添加をする本醸造は最も低価格な低いランクの日本酒とされていました。

しかし、そこにあえて本醸造で勝負しました。しかも1800mlの一升瓶で2.000円を切る値段(発売当時)に周囲は驚かされました。

旨い酒といわれていたものは750mlの四合瓶で3.000円以上していたこの時代、目を疑うような低価格で販売する「十四代」に日本酒業界は「価格破壊」を巻き起こしたのでした。

他の蔵元達も高品質で低価格の酒造りを努力するようになり結果、日本酒の品質も高くなったと言われています。

また、地酒を扱う酒販店でも「本丸」より高いか安いかという様に酒の価格の基準にするようになったとも言われています。

覚えやすい「本丸」と言うネーミング、誰もが手の出る低価格、しかも味は落とさず美味しく飲めるカジュアルラインの日本酒は瞬く間に全国各地にその名を轟かせたのでした。

そして「十四代」を不動の地位に押し上げたのは、まさにこの「十四代  本丸 秘伝玉返し 特別本醸造」に他ならないのです。

4. 様々な酒米で日本酒を作り始めた

この動画は1996年(平成8年)にニュース番組が高木酒造の「十四代」の特集です。発売と同時に話題となった「十四代」の人気について探っています。

画像が少し粗めで見づらいのですが高木氏の日本酒造りのこだわりと愛情が詰まった番組になっていますので、ぜひ見てみてください。

「十四代 中取り 純米 無濾過」は日本酒業界に新風をもたらし、「十四代  本丸 秘伝玉返し 特別本醸造」では価格破壊を巻き起こしました。

そしてもう一つ「違う酒米で純米吟醸酒を醸す」ということを行った草分けも高木酒造でした。

じつは同じ酒蔵が違う酒米で純米吟醸を造ると言うことはそれまであまり見られなかったのです。

ワインのように品種で楽しめる日本酒があったら楽しいだろうという発想からヒントを得て、酒米にも「山田錦」「雄町」「八反錦」「愛山」など個性ある酒米を使おうと考えました。それぞれの酒米による味の違いをお客様に味わって欲しいという思いから造ったのです。(季節ごとにリリースする限定酒として販売されています)

そして高木酒造「十四代」を醸す高木氏はいま第三のステージへと向かっています。それが若手蔵元たち後進の育成です。父である辰五郎氏が山田錦に匹敵する酒米を育てたいと、長年研究開発した酒米「酒未来」で日本酒を作ること。

「酒未来」は父方に美山錦、母方に山酒4(山田錦×金紋錦)を用いており、特有の米の甘みが特徴の酒米です。この酒米を酒造りに情熱を持ち取り組んでいる若い後輩の蔵元達に託していいます。長い年月をかけて育ててきた酒米を自分だけではなく他の蔵元へ託すのはなぜなのか・・・

「お互いが競い合いより魅力のある日本酒を造ろう」そういう思いからだといいます。同じ酒米でも異なる蔵が使うことで米の可能性が広がり違った個性を提案できる。

そしてその個性を提供できれば飲み手の楽しさも広がるのではないかと考えているのです。

アスク山形県米商社「アスク」HPより

現在「酒未来」を使用して酒を造っている蔵は、唯一の弟子である「東洋美人」澄川酒造をはじめ、意欲的に酒造りに取り組む気鋭の酒蔵に譲られ、各地で美酒が生み出されています。日本酒に詳しい方ならこのラインナップをご覧になってわかるかと思いますがなかなかの花形揃いです。

酒米「酒未来」を使用した日本酒

東洋美人

東洋美人 ippo 酒未来 (澄川酒造場) 山口県
蔵元紹介ページはこちら→
高木氏の唯一の弟子が醸す柔らかな甘みと控え目な酸味が特徴
1,800ml  3,240 円(税込)購入はこちら→

正宗

山形正宗 純米吟醸 酒未来 (水戸部酒造) 山形県 
公式HPはこちら→

バナナのような甘い香りと上品な酸味とジューシーな味わいが特徴
1,800ml ¥3,672 円(税込)購入はこちら→

寫樂

寫樂 純米吟醸 酒未来(宮泉銘醸)福島県 
公式HPはこちら→

酒鑑評会金賞常連の酒蔵が醸す、フレッシュで爽やかな味わい
1,800ml 3,758円(税込)購入はこちら→

羽陽男山

羽陽男山 酒未来 純米吟醸(男山酒造)山形県 
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香り穏やかでまろやかな甘みが特徴の飲み心地がよい酒
1,800ml  3,240円(税込)購入はこちら→

くどき上手

くどき上手 酒未来 純米吟醸(亀の井酒造)山形県 
蔵元紹介ページはこちら→

吟醸酒らしい華やかな香りしっかりとした味わいなのにスッキリ
1,800ml 3,599円(税込)購入はこちらから→

栄光富士

栄光冨士 酒未来50% 純米大吟醸無濾過生原酒(冨士酒造)山形県 
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無濾過生原酒のフレッシュな味わいと華やかな香りが特徴
1,800ml 3,266円(税込)購入はこちら→

惣邑

惣邑 酒未来 純米吟醸 (長沼合名)山形県
公式ホームページはこちら→

やさしい果実系の甘い穏やかな香りと味わいが口の中に広がる
1,800ml 3,456円(税込)ご購入はこちら→

御湖鶴

御湖鶴(みこつる)純米吟醸 酒未来(菱友醸造)長野県
公式HPはこちら→

御湖鶴特有のしっかりとした輪郭のバランスのよい味わい
1,800ml 3,363円(税込)ご購入はこちら→

一白水成

一白水成 純米吟醸 酒未来 火入れ (福禄寿酒造) 秋田県
公式HPはこちら→

香り穏やか、味わいは深く爽やかな切れが印象的
1,800ml  3,618円(税込)ご購入はこちら→

天青

千峰天青 酒未来 (熊澤酒造) 神奈川県
公式HPはこちら→

純米のしっかりとした旨み、しっかりとたつ酸の味わいが特徴
1,800ml 3,564円(税込)ご購入はこちら→

奈良萬

奈良萬 酒未来 純米吟醸 火入れ(夢心酒造)福島県
公式HPはこちら→

得意な「うつくしま夢酵母」で醸すジューシーで濃厚な旨みが特徴。
1,800ml 3,564円(税込)ご購入はこちら→

三井の寿

三井の寿 純米大吟醸 酒未来(井上合名)福岡県
蔵元紹介ページ→

高木氏が「酵母の魔術師」と呼ぶほど酵母使いの上手な蔵が酒未来で醸す渾身の一本
1,800ml 3,456円(税込)ご購入はこちら→

寳劔

寳劔 (宝剣酒造) 広島県
公式HPページはこちら→

封建の特徴辛口で切れのある中に酒未来のみずみずしい甘さが加わり新しいおいしさ
1,800ml 3,564円(税込)ご購入はこちら→

而今

而今 (木屋正酒造) 三重県
公式HPページはこちら→

ジューシーな酸味に酒未来の甘みと旨みが加わり絶妙なコラボレーションを醸し出す一本
1,800ml 2,800円(税込)ご購入はこちら→

※上記以外で、出雲富士 (富士酒造) 島根県、よこやま (重家酒造横山蔵) 長崎県、鳳凰美田 (小林酒造) 栃木県、南部美人(岩手県)なども酒未来を使用している。

5. 十四代を試すならまずこの4本

十四代は季節ごとに楽しめる限定酒などラインナップが豊富なのですが、ここでは飲むのであればますこのラインがおすすめという厳選4本を紹介します。商品説明と共に参考のために定価表示もしておきます。

十四代 中取り 純米 無濾過

十四代

定価:2,592円(税込)1,800ml

無濾過生原酒らしいふくよかな米の甘みとなんとも言えない甘い果物の香りが印象的な「十四代」の原点となる酒

十四代 本丸 秘伝玉返し 特別本醸造

十四代

定価:2,268円(税込)1,800ml

香りがフルーティーでさらりと口の中に入ってきてみずみずしい甘みが軽やかな本醸造。「十四代」の名前を不動のものにした酒

十四代  龍の落とし子 純米吟醸

十四代

定価:3,348円(税込)1,800ml

酒未来同様、父辰五郎氏が尽力した「龍の落とし子」を使用した純米吟醸。品のある甘い香りにさらりとした飲み口の品のある一本

十四代  純米大吟醸  特吟播州愛山

十四代

定価:4,320円(税込)720ml

開栓したときの甘い香りが印象的、さらりとしていて爽やかな飲み心地は純米大吟醸ならではの味わい

正規販売店で購入しましょう

「十四代」は現在ほとんど手に入らない日本酒です。売れるからと言って量産をせず自分の目の行き届く範囲でしか生産しないというポリシーのためです。

そのため、ネット上ではかなり高額な値付けで販売されていたりします。しかし、このような高額な価格で取引されている日本酒は、正規ルートでの入手ではなく保存状態に不備があり品質が劣化してしまっているなど多々問題点があるのも事実です。

正規代理店では抽選販売などの販売方法が多いですが、本来の定価販売を基本なので安心です。購入するのであればぜひ正規代理店ルートの安心できる品をおすすめします。

まとめ

ここまで日本酒「十四代」についてお話しして参りました。「十四代」がなぜ人気なのか、そして日本酒業界の新潮流を築いた「十四代」とはどのようにして誕生したのかと言うことがおわかりいただけたのではないでしょうか。

日本酒って知れば知るほどおもしろい、こんな素敵な日本酒に出会えて本当によかった。そして次はどんな日本酒と出会えるのかとても楽しみです。

新しい日本酒との出会いは、きっと心を豊かにしてくれることでしょう。皆様もぜひ自分のお気に入りの日本酒を見つけみてください。

【参考資料・出典】
日本酒ドラマチック(講談社)
愛と情熱の日本酒(ダイヤモンド社)
SINRA1994
10月号(新潮社)
朝日新聞 福島版 酒よ【高く、高く】
toshiyuki sasaoka
YouTubeチャンネル)

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