日本酒のラベルに山廃仕込みって表記してある日本酒を見かけたとないでしょうか?
そもそも他の日本酒とどういう所が違うのか、味はどう違うのか?
山廃ってなんだろう?と気になっていた方もこの記事をご覧になった後には山廃仕込みを理解し日本酒をより美味しく飲めるようになるでしょう。
後半では個性の強い「山廃仕込み」にちょっと工夫し、女性にもとても飲みやすい飲み方やオススメの銘柄をご紹介していきたいと思います。
目次
1. 「山廃仕込み」とは山卸し作業を廃止した日本酒の造り方
日本酒の酛造りには「生酛」と「速醸」がありますが、生酛造りから「山卸し」の作業を廃止した日本酒の造り方を「山廃仕込み」もしくは「山廃造り」と言います。
生酛造りとは酛(酒母)を作る際に空気中の乳酸菌を取り込む、昔ながらの日本酒の製造方法のことを言いますが、乳酸菌を発生しやすくする為に、櫂(棒のようなもの)で米をすり潰す作業を「山卸し」と言います。
山卸しは、とても重労働で手間がかかります。
その山卸しをやらない(廃止した)のが山廃造りになります。
明治42年(1909年)に国立醸造研究所から「山卸しの有無で酒母の成分に違いはない」(要はやってもやらなくても変わらない)との研究発表がされた後、この重労働な「山卸し」の作業を省き、酒造りを行う蔵元が増え「山廃仕込み」が全国に広くいきわたったと言われています。
現在の酛造りの9割は、自然の乳酸菌でなく人工の乳酸を加える速醸酛造りと言われる製造方法が主流となっています。
「山廃仕込み」とは、昔ながらの伝統的酒造りである生酛造りの派生で、「山卸し」という面倒な作業を「廃止」した日本酒造りのことです。
2. 酒母の製法により味の濃淡やインパクトが変わる
各々異なった製法による酒造りですが、酛の製法により日本酒の味は全く違うものになります。
速醸造りと言われる日本酒は香りが立ちスッキリとした味わいとなります。
生酛造りの日本酒は時間と手間をかけ自然の微生物を利用し乳酸を生成させ酵母を増やしていく製法ですので、時間がかかる分旨みがゆっくりと乗っていくため深みのある味に仕上がります。
山廃仕込みは、生酛造りの山卸しの工程を省いているのでさらにゆっくりと時間をかけて乳酸菌を取り込んでおりますので濃醇な旨みをだすことが出来ます。
また、生酛系の生酛造りと、山廃仕込みは燗映えするとも言われており冬の寒い時期には鍋と共に燗で味わうのもお薦めです。
3. 山廃仕込みのおすすめの飲み方3種類
生酛造りや山廃仕込みのお酒は純米酒と同様、燗酒に向いているお酒です。燗酒がお好きと言う方ならお燗をして飲むのがおすすめです。
温度帯は45度の上燗〜50度くらいの熱燗が最適。冷やで飲むより香りが生きてきますし癖のある複雑な味わいも燗にすることでまとまり飲みやすくなります。
しかしながら、個性が強い山廃造りのお酒は、日本酒を飲みなれない方や、女性の方には、そのまま飲むのはやはり躊躇してしまうでしょう。
そんな方のためにいくつか、まろやかで飲みやすくなるおすすめの飲み方をご紹介します。
3.1. 割り水燗
度数や、味わいが濃い山廃仕込みの日本酒は、割水で度数を調節し、熱燗ではなくぬる燗程度の40度くらいに温めることで山廃独特の酸味をソフトな味わいすることができます。
徳利に、おちょこ で1〜2杯ぐらいの水を足して燗につけるそれだけです。
お酒の全体量の5~10%くらいの量の水を足してあげるといいでしょう。
飲みやすくなるだけでなく、体にも優しい穏やかな飲み方ともいえます。
尚使用する水は水道水ではなくミネラルウォーターの方が日本酒の味を損なわずベストです。
3.2. お湯割り
お湯割りは焼酎を飲むときに良く聞く飲み方だと思いますが日本酒でも美味しくいただけます。
焼酎のお湯割りは、焼酎:お湯=6:4「ロクヨン」と呼ばれる割り方が黄金比率です。焼酎はアルコール度数が日本酒よりも高いためお湯の割合を多くします。日本酒の場合、焼酎程アルコール度数は高くないので「ロクヨン」で割ると少し水っぽくなります。
日本酒の場合の黄金比率は、日本酒:お湯=8:2が黄金比率です。先にグラスにお湯を注ぎ後から日本酒を注ぎます。
お湯割りの場合には日本酒が先ではなくお湯を先にグラスに注いでおいてから日本酒を注ぎます。これは、お湯と日本酒の温度の差がグラスの中で対流を起こし混ざりやすくなるからです。
日本酒にお湯をあてると日本酒のアルコールが揮発し日本酒のにおいが鼻につき飲みづらいと感じる原因にもなります。焼酎のお湯割りも同様ですが、お湯割りを作る時は、お湯を先に注ぎ、その後にお酒を加えるということを覚えておきましょう。
こちらも「割水燗」同様、アルコール度数を下げることができ、日本酒が柔らかくなりとても飲みやすくなります。
お湯割りのお湯を水に変えて水割りでも美味しい。この場合の比率もお湯割りと同様の「8:2」で作る。
尚日本酒の水割りに関しては「日本酒が苦手なOLも驚くほど飲みやすくなる日本酒の水割りの作り方」で詳しくご紹介しているのでそちらを参考にしていただきたい。
3.3. 前割り
焼酎の美味しい飲み方に「前割り」と言う方法があります。これは、予め焼酎を水で割って寝かせまろやかな味になった所を楽しむという芋焼酎本場の鹿児島や宮崎には昔から伝わる方法です。
生酛や山廃などの少し癖のある日本酒にもこの「前割り」と言う方法を用いると、とても美味しくいただくことが出来ます。作り方は、焼酎で作る時と同じ方法で割る比率だけを変えます。
・まず、空になったペットボトルや四合瓶(720ml)を用意。
・さきほどお湯割りの所でご紹介した黄金比率8:2、日本酒8、水2、の割合で日本酒と水を瓶に注ぎ蓋をして冷蔵庫へ。
・冷蔵庫で1日~3日程寝かせたら完成。(1週間ほど寝かせてもよりまろやかになり美味しくいただけます)
たったこれだけなのですが、このひと手間かけることで瓶の中の水と日本酒がブレンドされ、とてもまろやかになりビックリするくらい飲みやすい日本酒に代わります。
使用する水は水道水ではなく、もちろんミネラルウォーターを使用してください。
4. 山廃仕込みの人気銘柄4選
それではオススメの山廃仕込みのご紹介をさせていただきます。
4.1. 菊姫 山廃純米酒
山廃と言えば「菊姫」は有名だが少々、ビギナーには飲みづらい一品ではある。
しっかり造った麹と強健な山廃酒母で、米の旨味を目一杯引き出し、酸味がしっかり効いた、濃醇で飲み応えのある辛口の味わい。
蔵元:菊姫合資会社(石川県)【公式ページはこちら】
製品:菊姫 山廃純米酒
容量:720ml
価格:1.512円(税込)
4.2. 天狗舞 山廃仕込 純米酒
山廃独特な香りと酸味のバランスが山廃好きには心地いい。後味は、すっきりしており比較的、山廃初心者でも無理なく飲める1本。
蔵元:株式会社車多酒造(石川県)【公式ページはこちら】
製品:天狗舞 山廃仕込 純米酒
容量:720ml
価格:1.328円(税込)
4.3. 常きげん 農口流 山廃大吟醸
山廃造りを得意とする蔵元が、1998年(平成10年)日本酒造りの神様と言われる農口尚彦を杜氏として迎えさらに磨きがかかった山廃仕込みの品質を向上させた。(農口氏は2012年平成24年退職)
2010年3月に、NHKの「プロフェッショナル~仕事の流儀~」で弊社が取り上げられ、その際、NHKのスタジオで飲まれていたお酒がこの山廃大吟醸。
蔵元:鹿野酒造株式会社(石川県)【公式ページはこちら】
製品:常きげん 農口流 山廃大吟醸
容量:720ml
価格:8.640円(税込)
4.4. 初心者に絶対おすすめ!農口尚彦研究所 山廃吟醸 生
女性や山廃が苦手な人でも飲みやすい1本がこの「農口尚彦研究所 山廃吟醸 生」と言っていいでしょう。山廃特有の酸味や米の旨みは感じられるものの、あの独特のガッンとしたパンチは感じられず上品な柑橘系の香りと甘みを感じることが出来ます。
この山廃仕込みに関しては、まず冷酒でそのまま味わっていただきたい1本です。
農口尚彦氏は、1961年(昭和36年)菊姫合資会社の杜氏として着任し1990年平成2年「菊姫大吟醸」をJALファーストクラス搭載日本酒に押し上げた立役者。また、山廃と言えば「菊姫」と言わしめるまでに「菊姫」を成長させた人物でもある。
1997年(平成9年)菊姫合資会社を退職後は、「常きげん」の蔵元である鹿野酒造㈱の杜氏として着任し鹿野酒造の山廃造りの酒質の向上に務め、2006年(平成18年)「現代の名工」に認定される。
全国新酒鑑評会において通産27回もの金賞受賞をするなど輝かしい功績の持ち主です。
蔵元:農口尚彦研究所(石川県)【公式ページはこちら】
製品:農口尚彦研究所 山廃吟醸 生
容量:720ml
価格:2.700円(税込)
5. まとめ
ここまで山廃仕込みに関してお話ししてまいりました。
「山廃仕込み」とは、日本酒の酛(酒母)造りの一つ、生酛造りに於いて山卸しを行わない方法のことです。
1)生酛造りー山卸しを行う方法
生酛造りー山卸しを行わない(廃止した)方法(山廃仕込み)
2)速醸酛造り-元々山卸しはしない
いかがでしたか、山廃仕込みとはどんな日本酒なのかがお分かりいただけたでしょうか。昔ながらの製法で手間と時間をかけて出来上がった日本酒の醍醐味を感じていただけたと思います。
日本酒ビギナーには、飲みづらいと敬遠されがちな山廃仕込みではありますが、飲み方にちょっとした工夫をするだけで驚くほど飲みやすくなりますのでぜひ1度試していただけると嬉しいです。
※香り、味の表現は、あくまでも個人的な感覚での表現となり全ての方がそのように感じると断定するものではありません。
※日本酒の在庫等の調査は記事掲載時のもので欠品、終売に関しては各店舗へのお問合せをお願い致します。
【参考文献】
「新訂 日本酒の基」(NPO法人FBO)
「酒販店で買える究極の日本酒」(PHP研究所)
「日本酒完全ガイド」(池田書店)
「日本酒の教科書」(新星出版社)
日本でも三番目に古い歴史のある酒蔵の飛良泉の山廃仕込みがオススメですね。
自分の地元の自慢の酒です。