日本酒造りに欠かせない「酒母(しゅぼ)」をわかりやすく解説します

日本酒の勉強を進めていくうちに、「酒母(しゅぼ)」というものが出てきます。
「日本酒のおおもと」になる、というのは何となくわかっていても説明が難しい酒母。

私も唎酒師を取得する際に勉強したのですが、科学的な考え方も入ってくるので少し難しいんですよね。
そこで、できるだけ簡単に「酒母ってなに?」というのを説明していきます。

酒母を知ると、「酵母」や「麹」、「生酛・山廃」なども理解できるようになるので、ぜひ知っておくことをおすすめします!

あまり細かくは突っ込まず、意味が分かる程度にシンプルにしてお話していきます。特に日本酒を勉強したての方の参考になると嬉しいです。

1.酒母ってなに?

酒母の画像
画像:「田酒を醸す 平成17年醸造の記録」(株)西田酒造より

酒母は日本酒をアルコール発酵させるためのもの

シンプルにいうと、酒母は日本酒のアルコール発酵のもととなるもの。別名「もと」とも呼ばれますね。

タンクに入った白い液体がプツプツいってるのを見たことがあるかもしれません。それが酒母です!(上記画像)

酒母について説明するには、まずは日本酒の作り方から!

まず日本酒は醸造酒。発酵させてアルコールになるものです。

ではアルコールに必要なものは?

・・・それは「糖分」です!

例えば、ワインも醸造酒ですが、原料のブドウに自体に「糖分」があり、その糖分で発酵させてお酒にします。

しかし、日本酒の原料であるお米には「糖分」ではなく「でんぷん質」が含まれています。

てことは、「でんぷん質を糖分に」「糖分をアルコールに」変えるということが必要なわけです。

この2つを酒母造りのプロセスでやっていきます

ちなみに日本酒はこの2つを一気にやっちゃうので「並行複発酵」と呼ばれますね。

酒母の原料は?

酒母の造り方|図解

酒母の原料は、主に蒸米、麹、仕込み水
この3つに加えて、多くの酒蔵が酵母や乳酸も入れていきます。

これらをタンクに加えると最終的に酒母ができるわけですが、ここで大事な働きをする微生物が次の2つ。

麹菌:でんぷん質を糖分にする
酵母:糖分をアルコールにする

タンクの中で「麹」に付着した「麹菌」が、蒸米のデンプンを分解してブドウ糖に変化させます。これが甘酒です!

そして、「酵母」はブドウ糖をアルコールに変えていきます。

麹菌と酵母は上記の役割だけじゃなく、日本酒の「香り」「味わい」も左右するので主役級の要素です。

酒母は「必要な酵母だけ」を育てる!

アルコール発酵に大事な酵母ですが、微生物なので自然界にたくさん存在しているんです。

でも、アルコール発酵に必要なのは「清酒酵母」と言われるもの。他の「野生酵母」はお酒造りの邪魔になります。

この野生酵母含め他の雑菌を抑えて「清酒酵母」だけをたくさん培養するのが酒母です!

この雑菌によってだめになってしまう日本酒はありますからね・・・とても大事な工程です。

蔵つき酵母VS.きょうかい酵母

「蔵つき酵母」という言葉を聞いたことがあるかもしれません。
実は蔵の樽や壁などに自生する酵母のみを利用する酒蔵さんもあります。昔は主流でしたが、培養するのがめちゃくちゃ大変。安定もしない。

そこで広まったのが、「きょうかい酵母」!
真澄の蔵から生まれた「7号酵母」とか、新政が使う「6号酵母」とかありますね。品質高い酵母なので、安定したお酒造りが可能になりました。

逆に言うと、蔵つき酵母で造られた日本酒は、他の日本酒にはない独特な味わいが楽しめます。

2.酒母を助けてくれる「乳酸」とは

乳酸菌の働き|図解

酒母造りの中で発生する雑菌。その雑菌を退治してくれる頼もしい存在が「乳酸」です。

乳酸を加えることで、乳酸発酵が始まり乳酸菌ができます。この乳酸菌が雑菌を退治してくれるんです。乳酸のおかげで、酒母は安心して清酒酵母をたくさん培養することができます!

乳酸って必要な清酒酵母まで退治しちゃわないの?

しません!「清酒酵母」は乳酸に強いんです。他の必要ない酵母だけが退治されていきます。

タンクの中には乳酸菌に強い「清酒酵母」だけが残り、エサであるブドウ糖を食べて増えていきます。

しかも、最終的に乳酸菌は酵母によって発生したアルコールにより次第に減少していきます。うまくできている!

乳酸は「生酛・山廃系」と「速醸系」の2種類

雑菌を押さえるために加える「乳酸」ですが、この乳酸には大きく分けて2種類あります。
1つは「生酛・山廃系」と呼ばれるもの、もう1つは「速醸系」と呼ばれるものです。

乳酸の種類|図解

・「速醸系」
速醸系の乳酸でつくる酒母は、タンクに原料を入れる時に、一緒に人工的に造られた「乳酸」を投入します。だいたい2週間ほどすると酒母は完成されます。

利点は、必要な酸度をすばやくつくることができ、失敗の少ない安定した酒母造りが出来るという点。そのため現在9割くらいの蔵がこの手法をとっています。

・「生酛・山廃系」
「生酛・山廃系」では、乳酸菌の投入はせず蔵に自生した乳酸菌を利用します。自然発生した乳酸菌をどんどん育てていくので、時間もかかるし作業が大変です。そのため、現在では1割ほどの酒蔵しか採用していません。

「山廃」というのは「山卸し廃止」を短縮したもの。山卸しとは、乳酸菌を育てるために寝ずに手で米や米麹をすり潰す作業です。これが日本酒造りで一番重労働と言われる作業です。

これが酵素のおかげで必要なくなったんですね。

詳しく言うと、「水麹」と呼ばれる麹米と水を混ぜ合わせた物を初めにつくり、水の中に麹の酵素を溶け込ませておきます。その中に蒸し米を加えていきます。こうすることですり潰さなくても乳酸が発生するので、山卸しが廃止となりました。

一般的に、「生酛・山廃系酒母」で作られた日本酒は力強く独特な酸味の日本酒が多く、「速醸系酒母」の日本酒はもっとスッキリした味わいが多いです。

まとめ

酒母は「日本酒のアルコールのもと」となるもの。雑菌を退治して、アルコール発酵に必要な清酒酵母だけを培養してくれます。

酒母が頑張ってくれるおかげで私たちはおいしい日本酒が飲めますね^^

ぜひ参考になるとうれしいです!

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